かくして『うさぎ』は、やって来た


衛星軌道上に位置するギャンブル都市、ニュー・マカオ。
 ここは、その名の通り、ありとあらゆるギャンブルとゲームを集めた街である。
 カードとルーレットをメインとするクラシカル・カジノ。
 スロットとビンゴで気軽に遊べるアメリカン・カジノ。
 花札やサイコロ賭博にはキモノが必須アイテム、賭場。
 女性連れにウケのいいショット・バー。
 中国語が話せなくてもプレイできる麻雀荘。
 もちろん、庶民の娯楽、パチンコ。
 どのような趣味の人にでも対応できるだけのものが揃っている。
 そして、もう一つ、この街の特徴は「カジノに入るためには、その場にふさわしい服装が要求される、ということで、コスチュームのレンタル店も軒を連ねている。
 日本州警のバーリーは、休暇を利用して、ここニュー・マカオにやってきた。
 彼には、博才がある、というのは言いすぎだとしても、ギャンブル運に恵まれているのは間違いない。

 ほんの2時間ほど前、バーリーは、タキシード姿で葉巻をくゆらしながらポーカーにトライし、見事ジャックポットを射止めた。
 それに先立つこと3時間、彼はキモノの裾をからげたうえに立て膝で、チンチロリンをやっていた。
 ここでは、さして勝ちもしなかったが、負けもしなかった。
(そろそろ、いつもの服装に着替えてパチンコでもするか)
 着慣れない服のせいで凝ってしまった肩をほぐしながら、軍艦マーチの流れる店内へとはいった。
 釘の状態をにらみながら台を選ぶ。
 表情は真剣そのものだ。
 この真剣さがツキを呼ぶのかもしれない。
 選んだ台に向かったバーリーは、まばたきの回数が減少している。
 それほど一生懸命に玉の行方を見つめている。
(入れ!入れ!)
 心の中で玉を応援する――というよりは(入れ!)と念じている。
 その甲斐あってか、7台を打ち止めにした。
(これだけあれば、さぞかし、いい景品がもらえるだろう)
 ホクホクしながら大量の玉を運んだバーリーの前に差し出されたのは『うさぎの縫いぐるみ』だった。
 たかが縫いぐるみとバカにするなかれ。
 それは、本物のウサギの毛皮を縫い合わせたもので、中に詰めてあるのも、これまた100パーセント純粋ウールである。
 毛皮もウールも合成ものがほとんどのこの時代、天然ものの価値は高い。充分に7台打ち止めに見合うだけの品である。
 だが――
(あぁあ…なんだかな〜〜)
 バーリーは少々肩透かしをくらった気分である。
(もっと違う物のほうがよかったな)
 ともあれ、こうして、うさぎの縫いぐるみは、バーリーのもとにやってきたのである。

 この大型縫いぐるみは、後日、リィンが『忠熊モモ』像の前で持つことになる。

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