He will never…

 (はぁ……刑事って仕事は、僕には向いてないのかな……)
 六道リィンは自分のデスクに向かった姿勢のまま大きな溜息をついた。
 目の前には書きかけの始末書が2枚広げられている。
 1枚はリィン自身のもの。もう1枚はバーリーのもので、始末書を書く羽目におちいった原因はバーリーにあった――いや、バーリーとて、最初から始末書覚悟だったわけではないが、犯人一人を追跡するためにパトカーを3台も大破させてしまったとあっては、申し開きもできなかった。
 それでも、犯人逮捕に結びついていればまだしも、逃げ切られてしまっては、言い訳もできない。
 結果として、同行していたリィンも始末書を書くことになってしまったのである。
 この時、それぞれが自分の分を書いていれば、リィンの溜息も、もう少しはマシなものになったのだろう。
 ところが今、リィンの前には2枚の用紙がある。
 これは、始末書を書くという時になってバーリーのもちだした『賭け』にうかうかとのってしまい、挙句に負けてしまったせいだ。負けたほうが書くという約束だったのだから、仕方がない。
「そもそも刑事が署内で賭けをしていること自体に問題がある」とか「バーリーに賭けで勝てたためしがないのだから、いい加減に学習すべきだ」とか外野からはいくらでも言うことができるのだが、リィン自身は、バーリーに『賭け』をもちかけられると断れない。
 断ったら、バーリーが気を悪くするのではないかと心遣いをしているというよりは、リィン自身が『今度こそは!』と意気込むせいだろう。
 そして毎回毎回バーリーの分の仕事を押し付けられて溜息をついている。
「刑事に向いてないんじゃないか」という自問も、もう何度目になるか数え切れない。
「元気出しなさいよ」
「どうってことないって。始末書の一枚や二枚」
 デスクに顔を伏せてしまったリィンに対して署内の女性たちから声がかかる。
「刑事をやめて他の仕事についたとしても同じことだと思うわよ」というシビアな意見もある。
「ねえ、ねえ、これをやってみてよ。けっこう当たってるって評判だから」
 気を紛らわせようというつもりなのか、心理テストを特集した雑誌がリィンの前に出された。
 開かれたページに載っていたのは、タバコを差し出された場合にどれを選ぶかで、その人の心理を判定するという内容だった。
 リィンは、直感的に番号を選んでいた。
「結果は?」
 好奇心を隠そうともしない女性たちに促されるまま解答ページを見たリィンは、更に深い溜息をつくことになった。
 そこには彼の現状が如実に映し出されていたのだ。
 

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