貴羅の選択・あなたの選択
晴らせぬ恨みを晴らしてくれる影の始末屋――
クラシック映画の主人公だが、その存在を秋野貴羅は信じている――正確には、存在を信じたいと思っている。
それは、彼女が尽きせぬ恨みを抱えているからであり、同時に影の始末屋を雇うのに必要とされる大金を至極簡単に用意できる身分だからでもあろう。
たとえ、晴らせぬ恨みを抱えていても、始末屋に大枚を支払う余裕がない人物だったなら、その存在を望むことはあっても、雇おうなどとはしない。
加えて貴羅には、「始末屋の連絡員」なる者を紹介してくれる友人が存在した。
これらの条件が重なったがゆえに、彼女は始末屋に(正確には始末屋の連絡員に)三千万日本州円を支払うなどという思い切った行動にでた。
普通なら、始末屋を雇った人間は、「仕事」が終了するのを待つだけでいい。
というよりは、自分自身では、恨みを晴らすことができないからこそ、「専門家」を雇っているのであり、自分自身の手を汚すことなく問題を解決したいと考えるからこそ、大枚をはたいたはずなのだ。
だが、貴羅は、単なる金持ちのお嬢様ではなかった。
ある面では、妙に行動力もあり、思いつめれば何をするかわからないという性格の持ち主でもあったのだ。
つまり――恨みを晴らすためならば、自分の手を汚してもかまわないと考えるような性格であったのだ。
彼女は、始末屋よりも先に自分が敵を見つけ出した場合をも想定して、準備をしていた――手がかりになる人物を発見した際に、尾行するために必要なもの――金銭にカード類、記録用電子機器などをバッグに詰め、常に身近なところに置いていたのである。
それは、彼女にとっては、殊更、おかしなことではなかった。少なくとも不合理なことではない、と考えていた。
人間、いつ、どこで、どのような人物と出会う(あるいは目撃する)かもしれないのだし、目的をもって行動している限り、始末屋よりも先に、発見するという僥倖に恵まれないなどとは断言できないのだから。
実際、彼女は事件に関わりのある男を見掛けることができた。
そして、準備してあったバッグの一つを手にするや、あとをつけたのだ。
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もしも、あなたが秋野貴羅だったら、外出時にはどのバッグを持って出ますか?
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