N 〜おもひのかたち〜


New Year
12月31日・午後11時59分30秒
秒針が確実に1つ1つ進むのを目の端にとらえながら、僕は電話をかける。
新しい年の始まりに、最初に耳にするのは、君の声でありたいから。
新しい年の始まりに、君が最初に聞くのも、僕の声であってほしいから。
こんな僕のおもいを君は子供っぽいと笑うだろうか?

君もまた、僕と同じおもいを抱いてくれるだろうか?

短いコールのあとで、君が電話に出る。

Happy New Year!

楽しい1年にしようね。
Night Bar
「もう終わりにしましょう」
そう言ってあなたは指輪を外し、アップルブランのグラスに沈めた。
透明な液体の中で、銀色の指輪がキャンドルの灯をはじく。

アルコールはあまり好きにはなれない、と言ったあなたに
「これは、爽やかな香りですから」と青リンゴテイストのカクテルを薦めてくれたバーテンダー。
あなたは、その白ワインベースのお酒を「爽やかな味わい」と評した。
あの日から、あなたはアップルブランを選ぶのが常だった。

一杯のグラスをゆっくりとかたむける。
それにつれて頬が桜色に染まってゆく。
そんなあなたを見ているのが好きだった。

今、あなたはヒールの音を響かせて遠ざかってゆく。

なにがいけなかったのか。
なにが変わってしまったのか。

わかっているのは、あなたを取り戻すすべはないということだけ。
Nectarous Time
晴れた日の昼下がり

君とテラスでお茶を飲む。
立ちのぼる湯気を眺めながら、そっと微笑をかわす。
無言のうちに流れる時間さえ暖かいのは
ここに君がいるからだね。

小鳥のさえずりが聞こえる。
わずかな風が僕たちを包み込む。

「お茶、もう1杯どう?」

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